【解説】 2004年の再生後初の作品となる『Take Fountain』が発売した2005年2月以降、その年だけで結果的に111公演を数える事になる長期ツアーが組まれた。そのツアー終盤、2005年11月20日、ロンドンのヴェニュー「Sheperd's Bush Empire」で収録されたライヴ・アルバム『Shepherd's Bush Welcomes The Wedding Present』と、同じ夜の映像版DVD『An Evening With The Wedding Present』はロンドンのレーベルSecret Records(Films)からリリースされた。CD版、DVD版共にレーベルのWEBサイトで先行発売され、前者は2007年12月、後者は2008年2月から発売。いずれも数ヶ月後に一般店頭でも発売になっている。CD版は収録時間の都合からか、レギュラーセットとして入っていたカヴァー・ソングの「Falling」(1992年の月刊シングル・シリーズ『THE HIT PARADE』の第4弾「Silver Shorts」のカップリングで発表。カヴァー・ソングで有名なバンドでもあるが、ライヴのレギュラー・セットにカヴァー・ソングが組み込まれる事は非常に稀で、この曲はライヴで演奏された事はたった1度しか無かった)がカットされ、エンディングの「Heather」はCD版ではどうした事かイントロのカッティングが省略されている。
CINERAMA時代よりデイヴィッド・ゲッジの音楽的なパートナーとして重要な役割を担って来たサイモン・クリーヴ在籍時最後のツアーからのものであり、実際その過酷なツアー生活の果てに、このライヴの前に行われたフランス・レンヌでは過労のためダウンするなど、完全に体調を崩していた時期でもあった。またツアー・ドラマーはCINERAMAの2ndアルバム『DISCO VOLANTE』のメンバーでもあり、ベーシストのテリー・ディ・カストロとは元々Goya Dressでバンド・メイトだったサイモン・ピアソンが担当しているが、『TAKE FOUNTAIN』以降に頻繁に入れ替わったドラマーの中でも、酷な事を言う様だが、最も旧TWP時代のアグレッシヴなレパートリーに対応出来ていないプレイヤーで、TWPサウンドの肝と言っていいグルーヴ感を産み出していた独特なリズム・パターンはことごとく単純化され、冒頭の「Corduroy」や「Blue Eyes」などはただの8ビートになってしまっているし、初期のレパートリー「A Million Miles」に至ってはあの疾走感は完全に失われてしまった(それにしても、このテンポの遅さは致命的だ。この曲のオリジナルのテンポは曲の主人公の心臓の鼓動の速さ、そのものだから)。『TAKE FOUNTAIN』の楽曲でさえもたつく場面があるし、正直この夜を記録として残しておく意義は、おそらくそのツアー中でも最大のキャパシティーを誇るヴェニューであったという事実以外には無い気さえしてくる。 個人的には、このツアーを最後にサイモン・クリーヴが脱退した翌年、DVDにもその姿が映っているサウンド・エンジニア(この夜のPA卓の前にも座っていた)を担当していたクリス・マッコンヴィルとグラエム・ラムゼイ、つまりは後の『EL REY』でのギターリストとドラマーが参加してからのライヴがあまりにも印象的だったため、余計にここでのバンドのキレの無さが歯痒くて仕方が無いのだ。
それでもなお、このライヴは素晴らしい。何しろ全編に渡って何とも言えない高揚感と幸福感に満ち溢れている。それは取りも直さず、このライヴに駆けつけたオーディエンスのTWPというバンドに対する愛情がひしひしと伝わってくるからだ。旧TWP時代のどんなレパートリーよりも大きな声援と共に会場全体がシンガロング状態になる、当時の最新のヒット曲"I'm From Further North Than You"がまさに象徴的だ。オーディエンスもライヴの一部である...そんな言葉を思い出す良質な記録である。シンプルなステージングを適度なカメラ割りで捉えた映像の編集も過不足無く、CD版は収録時間の都合上カットされた箇所と曲もあり、PAL方式しか無い(NTSC版の発売予定は無いとの事だ)のが残念ではあるが、ぜひともDVDの方で体験頂きたいものである。
ちなみにTWPにとっては、過去にカセット・ベースでオフィシャル・ブートレグ・ライヴなども発売されていたが、新録のライヴCD/DVDソフトとしては初の作品にあたる。なお、2013年10月にはイングランドでの『The Hit Parade』21周年祈年ツアーに合わせ、DVD版『An Evening With The Wedding Present』をカップリングした2枚組『Plugged In』として再発されている。 |