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  • view from front row (Live in Tokyo 2012 review) [2012/4/29]
     2012年4月16日、17日の2日間、東京・新代田FEVERでTHE WEDDING PRESENT(以下TWP)通算4度目の来日公演が行われた。今回は1991年作『Seamonsters』の発売21周年記念ツアーと銘打たれたものながら、新作『Valentina』の発売後初のツアーでもあり、東京公演以前に行われていた北米〜カナダ、オーストラリアでの通常のセットではその両作品をクローズアップするような内容になっていた。前半に『Valentina』収録曲を中心に過去のナンバーをチョイスとした内容、メインに『Seamonsters』LP全曲再現パートを挟み、エンディングにもう2曲過去のレパートリー、というものだったが、今回は同一会場で2日連続公演となったため、初日が『Seamonsters』再現パートを中心に、2日目が『Valentina』収録曲を中心とした2日間日替わりのセットとなった。また2日目に関しては、事前にTwitterの企画でファンからのリクエストを募っており、それが反映されたと思われる(少なくとも、僕のリクエストが1曲採用された・・・笑)嬉しい選曲もあった。
     それにしても、セットリストの違いだけでは語れない、両日の演奏、空気感が面白いほど異なっていたのが印象的だった。以下のレビューで簡単に総括していきたいと思う。ちなみに今回の来日メンバーはデイヴィッド・ゲッジ(g.&vo.)、前回の来日メンバーでもあるチャールズ・レイトン(dr)、ペペ・ル・モコ(b.&back vo.)の『Valentina』制作メンバーに、今年から加入した香港出身の新ギターリスト、パトリック・アレクサンダー(ちなみに東京公演の後が19年ぶりとなる香港公演であった)。器用に、どの時代のレパートリーでも弾けるパトリックの巧みなサポートぶりが、今回のライヴの大きな魅力にもなっていた。

     あくまで個人的な理由ではあるけれど、今回のライヴは会場後方のPAアウトではなく、直接前方のアンプ・アウトの音が感じられる環境で堪能したいという思いがあり、両日ともにフロント・ロウで体験した。その理由は今回の2日間のメインとなる2作のアルバムの再現性にポイントがある。言うまでもなく『Seamonsters』のポイントはエンジニアのスティーヴ・アルビニの手腕もあってバンドのライヴさながらの、まるで数メーター先でバンドが演奏しているような生々しさが感じられる録音の特異さ、それこそアンプのキャビネットが震える音、ボトルネックとピックアップの擦れる音、シールドとプラグのハムノイズまでが聞こえるような(そして、そういう偶然の要素さえ作品の一部として成立させているようにも聞こえる)、極限まで削ぎ落とされた音響デザインにあった。これをバンドの生の実演で再現されるその時に、自らを実際に数メーター先の環境に身を置いてみたかったということ。対して『Valentina』は現在進行形のバンドとして、今の旬の音が作れるエンジニア(それは意図したものでもあり、偶然の縁でもあったのだけれど)を起用したことで、ディジタル・デバイスでの再生をも想定したミクシングが特色ともなっていて、一方でアナログ録音に拘った成果としてのライヴ感もきちんと刻み込まれていた。これもまた、生音で再現された時にどう聞こえるのかをぜひ体感したかった。

    Day 1 (April 16th, 2012)
     観客動員としては案の定、興行的にも魅力のある初日の方が多かったようだ。何しろ、あの『Seamonsters』全編再現である。
     2010年の『Bizarro』21周年記念ツアー時と同様、今回も前半は新曲を織り交ぜた過去のレパートリーが演奏。オープニングSEのカウントダウン(新作冒頭の"You're Dead"のドラム・イントロにサンダーバードのカウントダウンが上手くコラージュされていた)と共に幕を開けるのは新作からの"Back A Bit... Stop!"。これはここのところのツアーの定番のオープニングだ。この部分だけは2日間共通。疾走感のあるナンバーだけにウォーミング・アップ的にも最適。2曲目でいきなりの名曲が登場。初期代表曲"My Favourite Dress"。2009年の来日公演でも演奏されたが、以降のツアーで取り上げられる時はアルバム『George Best』テイクに準じた、ギターのストロークのみで終わるアレンジで演奏されており、今回もそうだった。
     日本語のカンペを読みながらのデイヴィッドのMCを挟んで『Valentina』からの"524 fidelio "。印象的なペペのベース・ラインはライヴならではの重量感。続いて今回のツアー唯一のCINERAMAチューン"Quick, Before It Melts"は、TWP再生後のツアーでは非常に採用率の高い2002年作『Torino』から(まだCINERAMAを聴いたことの無い方はぜひこのアルバムから入って欲しい)。パトリックはストリングス・パートのフレーズも完璧にカヴァーしていた。実は、この曲はこれまでもTWPのライヴで演奏されてきたのだけども、間奏部分の肝と言っていいストリングスのフレーズが完全に省略されていたので、ここで個人的には「オオッ!こやつ、やるな!」と興に入る。本来この後、新作からの"You Jane"に行くはずが、『Seamonsters』再現パートへの橋渡しとなる"Perfect Blue"をデイヴィッドが歌い始めるハプニングが!最初戸惑ったペペとチャーリーもアイコンタクトで確認し、アジャストしていく。デイヴィッドが曲順を飛ばしてしまったのは、先ほどのMCで用いた日本語のカンペがセットリストの紙の上に覆い被さってしまったからだろう。それにしても、この曲の終盤の盛り上がりには切ないメロディーと相まって、いつもグッと来てしまう。偶然ではあるが、作曲法にストリングス・パートを予め取り込んで作品に落とし込んでいた時期、CINERAMAの『Torino』、TWP再生後第1作でありながら実質CINERAMAの4作目でもある『Take Fountain』からの2曲を時系列で、ネイキッドの状態で聴かせたことで、本来の意図とは違ったのかもしれないが、現在の2曲へと綺麗な流れを作り出すことになったのもまた事実だ。
     『Valentina』のリード・シングル"You Jane"、"You're Dead"を演奏し終えて、いよいよその時がやってくる。
     ところで、2007年の『George Best』20周年記念ツアーも、2010年の『Bizarro』21周年記念ツアーも、アルバムの再現パートの前に何らかのきっかけ、セレモニーがあったが、今回はそれも無し。いきなり「じゃ、Seamonstersをやります」という素っ気ないMCと共につま弾かれる"Dalliance"のイントロ。逆にこれが良かった。前2作とは異なる華々しいイントロではない、このアルバム再現パートの始まりにはよく合っている気がしたのだ。
     それにしても、その再現パートは文字通り、壮絶なものだった。"Dalliance"から"Dare"の必殺のコンボの後は、敢えてMCを挟まずひたすら『Seamonsters』が曲順通りに再現されていく。"Suck"の終盤ではボトルネックであの恍惚となるような音の壁が、"Blonde"の曲の進行につれバンド・グルーブの塊となっていく様相、"Rotterdam"でほんの一瞬訪れる安らぎ、そしてB面に入って、ボトルネックの揺らめくギターのドローン・サウンドと共に始まる"Lovenest"。目の前で、デイヴィッドがあの音を、あのフレーズを弾いているという実感。感激という他なかった。そして、曲間のあの長い残響音、ノイズパートをきっちり再現してみせてから始まる大名曲"Corduroy"の興奮。この辺りで完全に頭のネジが1〜2本飛んだ気がした。今回のツアーまで何十年もライヴでは演奏されていないファンキーな味のある"Carolyn"でもやはりボトルネックを使ったノイジーなギター・リフが最後に唸る。続く人気曲"Heather"ではデイヴィッドのヴォーカル表現が素晴らしかった。そして、大団円の"Octopussy"へ。もう言葉が見つからない。圧巻だった。個人的に、この夜がTWPの生涯のベストライヴであることは疑う余地がなかった。
     「ご存知の通り、僕らはアンコールはやらないんだけど、まあここからがそんな感じかな」というMCと共に1996年作『Saturnalia』からの"Kansas"。ライヴだとこの曲は本当に輝く。ここでも後半のボトルネックが冴え渡る。この夜はボトルネックを多用する曲が多く大満足だった。オーラスで傑作"Don't Talk, Just Kiss"。言うまでもなく、スティーヴ・アルビニとの初仕事になった"Brassneck EP"から。ブレイクと効果的なテンポ・チェンジは『Valentina』へと連綿と続くTWPの黄金律だ。

    Day 2 (April 17th, 2012)
     初日はある程度事前情報もあって、セットリストが予測がついた部分もあったのだけど、全く予想ができなかったのが今回の2日目の特別セットだった。結果として、『Valentina』を中心とはしながらも、いやはや、こんなに各時代から律儀に取り上げるとは、まるで解散するバンドのラスト・ライヴの様だと、不謹慎な喩えかもしれないが、それくらい大盤振る舞いのベストヒット集となった感さえあった。"Back A Bit... Stop!"で始まるのは前日と同様だったが、次が再生後の最初にして現時点で最大のヒットとなる名曲"I'm from Further North Than You"。すいません、これは私のリクエストが採用されました(笑)。過去の日本公演でも演奏されておらず、今回のツアーでも取り上げられていないので、感激ものだった。
      続く1992年の『The Hit Parade』シリーズからの"Loveslave"は当時のギターリスト、ポール・ドリントンがFugaziを意識して作ったというギター・リフを堪能。再び新作からボトルネックを使ったイントロから強烈な"Meet Cute"に続き、Twitterリクエストが採用されたと思われる名曲"It's a Gas"は1994年作『Watusi』から。TWPならではのタイトなバンド・アンサンブルで会場を乗らせた後、ボトルネック・プレイの号砲一発で始まる"Deer Caught In The Headlights"は改めて現在のライヴのキラー・ソングと呼びたい圧巻のプレイだった。ただデイヴィッドが歌詞を飛ばしたのが惜しかった。
     前日に続きCINERAMAチューンの"Quick, Before It Melts"のあとは前作『El Rey』からの"Don't Take Me Home Until I'm Drunk"。アルバムで聴くとあまり印象に強く残らないのだが、この曲もライヴ映えがするナンバーだ。
     前日来られなかったファンのために『Seamonsters』からのナンバーもいくつか演奏されたが、まずは"Rotterdam"。続いては日本語の怪しい?MCと共に始まった懐かしい1988年のシングル"Why are You Being So Reasonable Now?"は終盤でフランス語詩版のシングル"Pourquoi Est Tu Devenue Si Raisonable?"の一節も交えて演奏。続くペペのドイツ語パートもある"The Girl from the DDR"は『Valentina』から。この曲のもう1つの肝と言っていい終盤のテンポアップしたインタープレイは、このバンドの見事なコンビネーションで決まっていた。
     ここでデイヴィッドが目新しいテレキャスターを持ち出す。いつものセミアコとフェンダー・ストラトではない、少なくとも過去にテレキャスを弾いているところを見たことがなかったのだが、実は前日のオープニング・アクトであり、3月の北米〜カナダツアーに同行したToquiwaのmikkoから借り受けたものだそうだ。「良いサウンドだろ?」というデイヴィッドのMCと共に始まったのが1995年制作の『Mini』からの"Drive"。同曲をタイトルに関した2005年のツアー・ヴィデオの出来も素晴らしかったので、これは嬉しかった。『Valentina』からの"You're Dead"の後に、デイヴィッドがあのイントロを掻きむしる。『George Best』期の代表曲である衝撃の"Anyone Can Make a Mistake"が登場!ちょっと前後不覚になるほど興奮ものだった。そして『Seamonsters』冒頭の"Dalliance"〜"Dare のコンボはむしろ2日目の方が出来が良かったように感じた。"Dare"の間奏でデイヴィッド以外のメンバー達が笑顔で向き合いながら演奏しているシーンは何とも幸福な気持ちに包まれる。そう、常に笑顔で嬉々としてプレイを続けるチャーリーもそうだが、今のバンドは全員がTWPのナンバーを演奏することを心から楽しんでいるのが伝わってくる。
     この曲終わりでデイヴィッドとペペがドラムセットの所に駆け寄り、チャーリーと何か軽い打ち合わせのような雰囲気。ここで予定に組み込まれていなかったナンバーが急遽用意された。しかもあの"Kennedy"である。当然場内は歓喜の渦。実は先ほどのギターのお礼に、彼女のリクエストに応えたものだった。『Valentina』のエンディングを締めくくる"Mystery Date "では日本でのライヴならではの演出が。アルバムでも日本語ナレーションを担当した天野明香本人が登場し、生で再現してみせたのだ。これは貴重な瞬間だった。
     そしておなじみの"Brassneck"で大盛り上がりのあと、ラストは1986年のシングル"You Should Always Keep In Touch With Your Friends"を再びmikkoのテレキャスターで演奏。
     息も詰まる様な切迫感に圧倒された前日とは対照的に、とにかくこのバンドの良い所取りといっていい、様々なタイプのナンバーが楽しめるヴァラエティーに富んだ選曲から、本当に幸福な時間を過ごせたのがこの2日目だった。

    (special thanks to Hiroshi "Sho-gun" Tomooka, Ken Okumura and Porcupine-san!)


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First published on the internet in February 1998